研究紹介
脳虚血耐性
脳血管障害は、がん、心臓病に次ぐ日本人死亡原因の第3位(要介護になる疾患としては第1位)で、年間13万人もの方がこの病気で死亡しております。臨床的には、平成17年10月に超急性期脳梗塞へのrt-PA使用が日本で承認され、脳梗塞診療のブレークスルーとなりました。しかし、発症3時間以内という限定的な使用方法や様々な除外基準などから、その治療の恩恵を受ける患者さんはいまだ少ないのが現状です。2020年には脳血管障害患者さんは300万人を超えるといわれており、来たる超高齢化社会のためにも脳血管障害研究の発展は急務事項と考えられています。
当科では、脳血管障害研究の一環としてin vivo系の脳虚血モデルを作成し、薬物による治療効果の評価や、虚血性神経細胞死のメカニズムおよび神経細胞・グリア細胞のviabilityなどの検討を中心に行っております。特に、脳梗塞予防を新しい視点で見た脳虚血耐性研究に重点を置き、脳梗塞に陥らない究極的な「スーパーブレイン」を無理なく誘導することができないか実験的に検証しています。将来的にはこのような「スーパーブレイン」に神経変性疾患、炎症性疾患などに抗する働きがないか検討することも考えております。
近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いた研究について
近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)とは近赤外線(可視光線と赤外線の間の波長で組織透過性が高いことが特徴です)を用いて脳血流の変化を調べる機械です。
この装置を用いた検査は心身医療科で前頭葉の機能を評価するために既に臨床応用・保険適応となっていますが、現在当科では様々の刺激(音刺激や磁気刺激など)と組み合わせ、大脳皮質の運動野やその周辺領域との活動性の変化、連結について研究しています。
NIRSは簡便で経時的な測定が可能な反面、測定の安定が難しい方もおられ、また得られた結果が生理学的にどのような意味を持つのかなど悩ましい点もありますが、試行錯誤を繰り返しながらいろいろな実験系を組んで研究・解析しています。
ここまで読んで興味を見られた方、一緒に神経内科で”NIRSの不思議な旅”に出てみませんか?
NIRS測定の風景
(撮影用に通常よりも明るめにしてあります)

チャネル病
神経内科が対象とする脳・脊髄・末梢神経・骨格筋は、神経細胞や筋細胞の電気活動によって機能が維持されており、これは細胞膜に存在するイオンチャネルの働きにより営まれております。近年、イオンチャネルの遺伝子変異により、てんかんや周期性四肢麻痺などの神経筋疾患が発症することが明らかとなってきました。
当科ではこれまで寒冷曝露で誘発される家族性低カリウム性周期性四肢麻痺症例で骨格筋Na+チャネルの遺伝子変異を同定し、さらにパッチクランプ法による変異チャネルの機能解析から、寒冷曝露により症状が発現する機序を明らかにしました。
また、てんかんの一部では中枢神経系に発現するイオンチャネルの遺伝子変異が報告されており、私たちは遺伝子変異によるチャネルの機能変化が、てんかん発作の発現にどのように関わっているかを明らかにするために電気生理学的な機能解析を進めております。
経頭蓋磁気刺激に関連した研究

小脳刺激をされている宇川教授
経頭蓋磁気刺激が、日常臨床の中でどのように利用されているかについての説明は、検査項目のところに譲ることにして、ここでは、当科で行っている経頭蓋磁気刺激に関する研究内容をご紹介します。経頭蓋磁気刺激に関する研究は、宇川教授が、前任の東京大学神経内科に所属していた頃から、積極的に推し進めてきたテーマです。その蓄積されたノウハウを基に、次のような研究を行っています。
【経頭蓋磁気刺激を用いた大脳の可塑性に関する研究】
ヒトの脳内には、さまざまな神経回路が縦横無尽に存在しており、ヒトが活動する時には、この神経回路が活動しています。多くの行動において、学習が重要な機能を持っています。たとえば、スポーツや楽器の演奏などを思い浮かべてみるとよくわかりますが、何度も練習しているうちに、だんだんと上手にプレーしたり演奏できるようになります。この、「上手になる」「方法を覚える」という課程には、ヒトの脳の学習効果とその保持効果が働いています。この学習という現象は、どのような機構に基づいているのでしょうか。それはシナプスの可塑性という現象です。神経回路を形成している神経細胞(ニューロン)とニューロンの間を連絡するのがシナプスです。このシナプスの伝わる効率を変化させて、新しいことを覚えたり、新しい運動技術を身につけたりしているのです。このシナプスの機能効率を変化させることを、シナプス可塑性と言うのです。生理学的には、長期増強(LTP)または 長期抑制(LTD)という現象が起こっています。言うなれば、記憶をするのがLTPで,必要ないことを忘れるのがLTDです。繰り返し学習した結果、同じ刺激がシナプスに加わったときに、前回よりも、すばやく反応できるようになるのです。
昨今の研究で、反復磁気刺激を行うことにより、このシナプス可塑性を人の脳で誘導できることが明らかになりました。この作用を利用して、ヒトの脳の機能を生理学的に調べる研究を行っています。とくに、2007年に発表された Quadripulse transcranial magnetic stimulation (QPS) に注目しています。この方法は、反復磁気刺激の一種ですが、ヒトの脳のシナプス可塑性を変化させる効果が高く、刺激方法を変化させることで、脳の働きを高めることも、逆に、鎮めることも可能です。現在、日本国内でこの手法を用いた研究ができる施設は非常に限られています。
QPSの概要

この方法を用いて、運動における補足運動野の機能・前運動野の機能・感覚野の機能・大脳基底核の機能・小脳の機能などの解析を行っております。さらに、正常な脳の生理学的機能の研究成果をふまえ、様々な病気の治療に応用できないかと考え、その治療応用研究も行っています。運動野の機能を増強させて麻痺の回復を早めること・中枢神経の動きを押さえててんかんの治療を助けること・痛みに経路を押さえて痛みを治療すること・大脳基底核のバランスを正常にもどしてパーキンソン病を治療することなどを考えています。また、薬物の作用機序の研究にも、この刺激方法を利用しています。どのような病気に対してどのような方法が適しているのかを明らかにし、確実に有効な手法を確立したいと考え、研究を行っています。
| 共同研究施設 | : | 福島県立医科大学神経精神医学講座 |
| 東京大学医学部附属病院神経内科 | ||
| 国立精神・神経センター放射線部門 | ||
| 東北文化学園大学医療福祉学部 | ||
| 杏林大学綜総合生理学教室 | ||
| University of College London | ||
| University of Toronto |
【参考書籍】
磁気刺激法の基礎と応用(医歯薬出版株式会社)
【参考文献】
Hamada M, Ugawa Y, et al. Bidirectional long-term motor cortical plasticity and metaplasticity induced by quadripulse transcranial magnetic stimulation. J Physiol. 2008;586:3927-47
研究業績は「業績紹介」のページを参照ください





















