臨床紹介

磁気刺激法(検査)について

磁気刺激法とは、刺激コイルにごく短時間に大きな電圧をかけ急速に電流を流し、その磁束変化に応じてコイルに流した電流と逆向きに誘導された電流(渦電流)によりコイル直下の生体を刺激するものです。電気刺激と異なり、骨などの組織によって減衰せず脳内を刺激でき、痛みを伴わないことから中枢神経の刺激に有用です。

この方法を用いて経頭蓋的に大脳を刺激するのが経頭蓋磁気刺激法であり、既に広く臨床応用されている検査としては運動誘発電位(MEP)検査があげられます。これは、大脳皮質運動野および運動神経根を刺激して運動誘発電位を導出し、その潜時差(central motor conduction time; CMCT)を測定することによって皮質脊髄路の伝導時間を評価することができます。その他にも大脳運動野の興奮性を調べる大脳二連発磁気刺激法、小脳失調患者における障害部位を推定する手段として小脳刺激法といった検査があり、当科では様々の疾患の患者さんにこれらの検査を施行することにより病態の解明に努めています。

 

MEP

MEP(正常例,第一背側骨間筋より記録)
上から順に運動野刺激、錐体交叉部刺激、頸部神経根刺激による誘発筋電図を示す.

筋・神経生検、傍腫瘍性神経症候群の血清学的診断

筋・神経生検は、骨格筋・末梢神経(腓腹神経)の一部を採取して、顕微鏡で評価する病理組織学的検査です。

採取した組織は適切な固定処理を施し、ルーチン染色のほかに、必要に応じて免疫染色も行っています。患者さんの神経・筋疾患診断に重要な検査であり、治療方針の参考にしています。

傍腫瘍性神経症候群の血清学的診断

傍腫瘍性神経症候群の血清学的診断

神経超音波検査

神経超音波検査とは、脳神経系領域疾患、特に脳卒中診療に必要な超音波検査の総称です。頸動脈エコー、経食道心エコー、経頭蓋ドプラ、経頭蓋カラードプラ、眼動脈エコー、下肢静脈エコーなどがあり、頭から足まで全身の心血管系が対象となります。神経超音波検査のよい点は、経食道心エコーを除けば、非侵襲的に、検者一人でも救急外来からベッドサイドに至るまで短時間に繰り返し行えることです。これにより、脳卒中(特に脳梗塞)の超急性期における発症機序解明・病態把握から慢性期の再発予防に対する治療判断まで対応可能です。当科では、専用の超音波装置を所有しているので、経食道心エコーを中心に必要時にはいつでも対応しています。また、緊急性のない時の頸動脈エコー検査などは中央検査室と協力して行っています。

神経超音波検査

神経電気生理検査について

神経電気生理検査には以下のような項目があります。

(1) 神経伝導検査
(2) 反復刺激検査(疲労検査)
(3) 針筋電図検査
(4) F波検査、 H波検査(後期応答)
(5) 表面筋電図検査
(6) 単線維筋電図検査
(7) 体性感覚誘発電位検査
(8) 経頭蓋磁気刺激検査
(9) 視覚誘発電位検査
(10) 聴覚誘発電位検査
(11) 瞬目検査
など

当科では特に(8)の経頭蓋磁気刺激を利用した検査が充実しています。 これに関しては別に説明されていますので参照ください。

神経電気生理検査は目的を明確にして上記に中から必要な検査を実施します。 どのように検査を計画するかが重要であり、 これは検査中に適宜変更されます。 患者さんが痛みを感じる検査もあり、 最小限の検査で目的を達するのが最善です。 しかし、 遠慮し必要な検査をしないと、 結果の判断が十分できず、 かえって患者さんのためになりません。 このあたりに検査をする医者の個性がでます。

神経内科では、 局在診断という考え方があります。 たとえば、 麻痺があるとき、 しびれがあるときに、 その原因の障害部位を診断することです。 以下にこの局在診断に注目しながら、 具体的に検査の機会が多い(1)神経伝導検査、 (3)反復刺激検査、 (4)針筋電図検査の実際について簡単に述べてみます。

(1) 神経伝導検査は、 末梢神経の大径有髄運動線維、 大径有髄感覚線維を調べる検査です。 症例を想定しましょう。 四肢のしびれ、 脱力が主訴の30歳女性です。 経過は慢性です。 神経学的には四肢に非対称性の筋力低下、 感覚障害を認めました。 四肢の深部腱反射は減弱していました。 多発ニューロパチーの所見でした。 神経伝導検査を実施しました。 運動神経伝導検査で伝導速度の低下があり、 複合運動活動電位の時間的分散をみとめました(図)。 以上、 神経伝導検査により脱髄型の多発ニューロパチーであることがわかりました。 複合運動活動電位の波形から慢性炎症性脱随性多発ニューロパチー(CIDP)がもっとも考えられました(注意:MADSAM neuropathyというCIDPの亜型)。 患者さんは、 必要な検査を追加され、 治療が開始されました。

右正中神経の運動神経伝導検査

図:右正中神経の運動神経伝導検査

上段から、 手首、 肘、 腋窩で電気刺激した結果を示している。
肘刺激で複合運動活動電位の著しい時間的分散をみとめる。

(3) 反復刺激検査は、 主に神経筋接合部の障害を調べる検査です。 有名な疾患として、 重症筋無力症、 Lambert-Eaton症候群(LEMS)があります。 今度は75歳男性で主訴は倦怠感、 起立・歩行困難でした。 神経局在診断の難しい症例でした。 歩行障害を来すほどの下肢の筋力低下、 感覚障害、 失調はありません。 パーキンソン症状もありません。 強いていえば、 下肢の腱反射の消失、 下肢のごく軽度の筋力低下がとれるのみでした。 神経伝導検査を実施しました。 下肢の脛骨神経の著しい複合運動活動電位が低下をみとめました。 これは筋力に比較し不釣合いに低振幅であり、 重要な所見でした。 反復刺激検査に移りました。 漸増現象をみとめました。 診断は神経筋接合部の前シナプスが障害されるLEMSでした。 患者さんには早期の肺小細胞癌が見つかり、 肺癌の治療が開始されました。

(4) 針筋電図は奥深い検査です。 目的とする骨格筋に筋原性変化、 神経原性変化がないか、 あるとすればその活動性を評価できます。 また、 この変化が系統的なものであるか、 限局したものであるかの評価が重要です。 症例は右上肢の脱力、 筋萎縮があり、 頚椎症で手術を予定されている56歳男性です。 整形外科から頚椎症以外の可能性、 具体的は筋萎縮性側索硬化症の可能性はないかと紹介されました。 神経学的には頚椎症では説明できない舌の萎縮をみとめました。 針筋電図では、 脱力のある右上肢で異なる髄節支配の筋に急性脱神経所見(positive sharp wave、 fibrillation)、 fasciculationをみとめ、 運動単位は多相性であり、 干渉パターンは減弱していました。 僧帽筋、 胸椎傍脊柱筋で急性脱神経所見(postive sharp wave)をみとめました。 下肢の筋では異常をみとめませんでした。 頚椎症で説明できない脳神経領域、 胸椎支配領域に神経原性変化をみとめ、 診断はALSでした。

以上、 電気生理検査が臨床診断において決定的であった典型的な症例を提示しました。 実際は、 典型例ばかりでありません。 常に考えながら、 反省しながらの検査です。 神経内科の診察、 電気生理検査はだからこそやりがいがあると考えます。

当科には宇川教授、 榎本雪先生をはじめ、 日本臨床神経生理学会の筋電図・神経伝導分野認定医が3名、 認定技師が1名おります。 神経電気生理検査に興味のある先生・学生さんに興味をいだいていただき、 一緒に検査をできればと思います。

神経診察法の連載について

中外医学社出版の月刊誌「Clinical Neuroscience」に、当科宇川義一教授による「神経診察法の基本とピットフォール」好評連載中です。

一度、ご覧ください。


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