脳神経内科について
脳神経内科について
脳神経内科とはどのような診療科でしょうか?日本神経学会のHPにはこのようにあります。
「脳神経内科は脳や脊髄、神経、筋肉の病気をみる内科です。体を動かしたり、感じたりする事や、考えたり覚えたりすることが上手にできなくなったときにこのような病気を疑います。症状としてはしびれやめまい、うまく力がはいらない、歩きにくい、ふらつく、つっぱる、ひきつけ、むせ、しゃべりにくい、ものが二重にみえる、頭痛、かってに手足や体が動いてしまう、ものわすれ、意識障害などたくさんあります。まず、全身をみることが出来る脳神経内科でどこの病気であるかを見極めることが大切です。」
これをもう少し具体的にイメージしてみます。
Common diseaseは脳神経内科の主戦場である
上記のサブタイトルは、数年前の脳神経内科専門誌の特集の題名をほぼそのまま引用したものです。
脳神経内科、と言われてどのような診療科なのか、すぐにぱっと思い浮かぶ人の方が少ないと思います。日本神経学会のHPでも「脳神経内科はわかりにくいといわれることがあります。科の名称が紛らわしいことも一因であると思いますが、特に間違えられやすいのが精神科、精神神経科、神経科、心療内科などです。」とあります。また、精神科とは違うことは理解していても、難病だけを扱う診療科、よくわからない病気を専門に診療する科、といったイメージを持つ人もいます。
でも、そうではありません。
神経系の主訴で来院される患者さんの半数程度は、頭痛あるいはめまいを主訴に来院されます。こういった頭痛・めまい・しびれ・痛みなどの他、てんかん・認知症・脳梗塞などのcommon diseaseを診療する内科、それが脳神経内科なのです。
例えば脳梗塞は日本人の死亡原因の第3位であり、要介護になる疾患としては第1位を占めます。福島県の脳梗塞の人口10万人当たりの死亡率は全国7位(2017年)であり、こういった指標を今後少しでも改善していくことが本県の脳神経内科医の目標になります。
神経難病と向き合う医療
頭痛・めまい・しびれ・認知症・脳梗塞などのCommon diseaseを扱う一方、神経変性疾患や神経免疫疾患といったいわゆる神経難病を診察するのも脳神経内科です。アルツハイマー型認知症はcommonな神経変性疾患ですが、その他にもパーキンソン病・パーキンソン症候群・筋萎縮性側索硬化症・脊髄小脳変性症といった変性疾患があり、そういった病気の治療を行うことも重要な役割の1つです。病気の治療には、薬物治療だけでなく、社会的資源の活用・在宅での療養環境の設定など様々な観点からの総合的な医療の組み立てが求められます。このほか、多発性硬化症・視神経脊髄炎・重症筋無力症・多発性筋炎といった神経免疫疾患、筋ジストロフィーといった筋疾患などの治療も脳神経内科の重要な役割になります。
神経科学の進歩を臨床へ、社会へ
脳神経内科にまつわるこれまでのイメージの中で、「脳神経内科の病気は治らない」というものがあります。
でも、そうでしょうか。
確かに、神経系では個々の機能が高度に分化していて、一度障害が生じると回復しづらい側面はあります。しかしその一方、神経科学や分子生物学的手法の進歩などにより、これまで考えられなかったような画期的治療が突然現れることがある、それが脳神経内科であったりします。そういった画期的治療が実際に患者様に使用され、劇的な治療効果が認められている病気もあります。そう、「脳神経内科の病気は治る」、そういった時代が来ています。
そういった、神経科学の進歩に基づいた画期的治療を一刻も早く臨床の場に届け、社会に還元していく、それも脳神経内科の役割の1つです。
一方、先に触れた話にも関係しますが、「いまだに心療内科や精神科と混同され、神経内科を受診してほしい患者さんが神経内科受診を思いつかずに診断がつかない状態が何年も続いたり、それゆえに適切な治療のタイミングを逸したりすることが現在でもあります。」(日本神経学会HPより、一部改編)だからこそ、脳神経内科の社会的認知度を少しでも上げていくことも我々に課された義務なのです。
また、まだまだ十分な治療法が見出されていないいわゆる神経難病が多いのも事実であり、だからこそ神経科学の進歩に少しでも貢献し、将来の新しい治療法開発に結び付くきっかけを見出していくことも、脳神経内科に課された重要な役割なのです。
福島県立医科大学 脳神経内科について
当科は脳梗塞や脊髄梗塞などの血管障害をはじめ、筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病などの変性疾患、筋ジストロフィーなどの筋疾患、多発性硬化症やギラン・バレー症候群などの脱髄疾患のほか、脊髄炎、髄膜炎・脳炎、重症筋無力症、末梢神経障害、てんかんや頭痛などを対象とした外来・入院診療、救急対応を行っています。
入院診療は、数名の入院患者を一人の担当医が中心となって診療を行い、さらにグループでも診療を行います。神経学的診察法など臨床神経学の習得、基本的治療・専門的治療の習得のほか、筋生検・神経生検、経食道心臓超音波検査、頚部血管超音波検査、筋電図などの電気生理検査のほか、磁気刺激検査などを積極的に行っています。
また、毎週の総回診、抄読会、隔週の症例検討会のほか、脳神経外科とのジョイントカンファランス、内科合同カンファランスなども行っています。
この間、日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医の取得をはじめ、いずれは日本内科学会総合内科専門医、日本脳卒中学会専門医や日本神経生理学会認定医を取得することが可能となります。
神経診察:実際とその意義
神経診察は難しいというイメージがあります。しかし、そうでしょうか。
確かに、神経診察にあたって基本的な神経解剖の知識は多少必要になります。例えば、左右の錘体路は交差する、だから右麻痺がある患者さんでは左大脳病変が疑われる、といったような。でもあくまで基本的なことだけで大丈夫です。
むしろ、患者さんの訴えが非常に多彩で、またその中に診断のヒントが潜んでいることが多いので、十分な対話に基づく問診(とそのスキル)がとても重要になってきます。
問診に基づいて診断のヒントを得たら、あとは簡単な診察手技で大まかな方向性を出すことができます。
神経診察は、そして脳神経内科は、決して難しくありません。
福島県立医大脳神経内科では、この様な理論に基づく神経診察を常に行っており、医局員全員が神経診察のプロを目指しております。
参考図書:
神経症状の診かた・考え方 第2版 福武敏夫 著 医学書院
神経内科の外来診療 第3版: 医師と患者のクロストーク 北野邦孝 著 医学書院
神経診察:実際とその意義 水澤英洋、宇川義一 著 中外医学社